昨夜は近所の居酒屋に行った。我輩は酔うと少しだけ恥ずかしい話をする。架空の話も沢山する。かつて沢山を『さわやま』と間違って読んでいた我輩ごときがする架空の話というのも高が知れるというものですが、されど一つ一つの架空の話は創作のモチーフになり得ると考えるのです。
戦場で友人と立ち往生していたとします。敗色濃厚で撤退命令が出ている最中のことです。背後からは敵兵が迫っています。友人が流れ弾に当たり負傷してしまいました。友人は言います。俺に構わないで先に逃げてくれ、と。君たちは、どうしますか?
大抵の人たちは、逃げない、と答えます。見捨てて逃げられないと答えます。この場合の友人とは、本当に無二の友人です。友人でなくても家族でも構いません。とにかく大事で大切な人として考えて頂ければ前提が成り立ちます。我輩が思ったとおりの答えです。逃げる、と答えられる逃げ道を許さない方向へ誘導しているのだから『逃げる』と答えられるわけがないのです。
そこで我輩は言うのです。
立場を入れ替えてみてください。自分が負傷した側になった場合、どうしますか?
アルコールが入った酒の席ということもありますが、大抵の人は立場を入れ替えて物を考えられません。つまりは、自分が負傷して、もう助からない、このままだと友人も巻き込んで死なせてしまうかもしれないと悟った場合、見捨てて逃げてくれたほうが良くないですか?ということです。
凡の人、シチリア語でいうと『凡人』たちは悩みます。そう言われてみれば…。自分が負傷した立場の場合、相手だけでも生き残ってくれたほうがいいに決まっている。そうですよね。だったら、逃げない、という選択肢は間違っていませんか?凡の人たちはアルコールで酔った我輩の戯言に悩みます。我輩は楽しくて仕方がありません。我輩が誘導する方向へ誘導する方向へと凡の人たちが流れるのです。そこで我輩は、漫画とかテレビで得たような知識をひけらかします。例えば、自分が不治の病に犯された場合、余命幾許もないのなら残された命を大事に使いたいから告知してくれという者が大半らしいよ。君たちはどう思う?
俺なら私なら絶対に言って欲しい。例え半年しか生きられなくても、そのあいだ一日一日を大事に過ごすことが出来るし、死ぬ前にやれることは全部やっておきたい、と凡の人が言います。
立場、立ち位置がどこかということなのです。その話を踏まえた上で、先程の戦場の話に戻しますが、相手の気持ちになって物を考えるのなら、残酷な真実であったとしても、逃げる、という選択肢が正しいとは思えないかい?アルコールの回ってきた凡の人たちは、最初、逃げない、と言っていたにも関わらず、気持ちが傾いてきます。中には、迎合しているだけの者もいるかもしれません。酔っ払いの戯言と我輩の熱弁を思っている者もいるかもしれません。それでも、逃げることが、告知することが、正しいかもしれないという意見が場を席巻します。ただの誘導尋問です。そうなるように仕向けただけです。我輩、博愛友愛その他諸々の愛を背負って生きている聖者ですが、少し我が強いのかもしれません。
そこで再び酔っ払った我輩はベヨネッタのようにポーズを決めて言うのです。さらに立場を入れ替えてください。もう入れ替える必要がないと思うかもしれませんが、逃げる、などという単純な答えが正しい答えであっていいはずがないのです。不治の病の話にしても、告知などしてくれないで、知らないまま、病気は治ると信じたまま、絶望を味わうことなく死にたかった、と思う者がいないとも限らないのです。余命幾許もない家族や友人に「検査結果が出たけど、あと半年で死ぬらしいよ」と言えますか、告知しますか、ということです。言える、という者もるかもしれません。ですが、言いにくい、ということには違いはないでしょう。
つまりは結局そういうことなのです。
確かに貴方を見捨てて逃げることが私のことを想ってくれている貴方にとっては最良かもしれないけれど、貴方を見捨てて自分だけが逃げたという事実を私は死ぬまで背負って生きなければいけない、と感じたのなら答えが変わります。見捨てて逃げるぐらいなら、ここで一緒に死ぬ、という気持ちになったならば、見捨てるぐらいなら、ここで一緒に死なせてくれ、と言われたならば答えはまた変わるのです。つまりは答えなどない問いを最初から投げかけていただけなのです。立場が違う者同士、絶対に噛み合わない接点というものが存在するのだから仕方のないことなのです。
それでも我輩たちは、二律背反、ジレンマ、門番のマルコ、などを乗り越えて生きていかなければならないのです。答えのない問いに答え続けるのが人生というものなのです。この日本において戦場で友人と一緒に立ち往生という状況はなりにくいかもしれませんが、不治の病ぐらいには結構なります。余命幾許もない状況に自分を含め家族や友人がなることは往々にしてあるのです。そして、そのような大言壮語な話をしたあとに我輩、ビールを飲み干し、好きなアイドルの話をするのです。美人とか可愛いとかからちょっとズレたタヌキ顔が好きだとかどうとかこうとか……。
我輩、ここまで書いて途轍もない恥ずかしさが襲いかかってきましたが、今更、この日記において――。
昨日は飲み会に行ったよ。
お盆で昔の友達とかいて楽しかった。
そのときの写真UPするね。
久しぶりで結構みんな変わってたけど、
友情は変わらないって思った。
夏も終わりに近づいたけど、
みんなも今年の夏を楽しんでね。
などと書いて、どうするの?どうなるの?という呪縛のようなものが襲いかかってきて胃を締め付けて、悪夢にうなされて、冷や汗と脂汗が溢れ、夜尿症になり、陰部が猛烈に腫れ、現実と幻想の区別がつかなくなり、現実でも自分のことを我輩などと言い出してしまう確率3億8千万パーセントなので書けません。
我輩はとても弱い小動物なのです。
皆様、我輩を愛してください。
そして、戦場で我輩が撃たれたとしても、我輩が、我輩に構わずおまえだけでも逃げろ、と言ったとしても、出来る限り我輩も助けてください。お願いします。格好つけて『逃げろ』って言ってるだけなので「そういうことなら、さらばー」とか言ってスタコラサッサと逃げたりしたら親子七代ずっと祟り続けます。いや、祟り殺します。祟って祟って祟り抜いて枕元に立って、悪夢を見せて、冷や汗と脂汗を溢れさせ、夜尿症を引き起こし、陰部を猛烈に腫れさせてやります。絶対に逃がさん!
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